志村 孚城(しむら たかき)先生のコラム

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志村 孚城先生

日本早期認知症学会 理事長。日本生体医工学会BME on Dementia研究会 会長。富士通に在籍中に、医療・福祉機器やシステムの研究開発や認知症の研究などに携わったのち、浜松市内で、デイサービスセンターを運営。実際のケアに携わりながら、認知症の研究・予防・対策に積極的に取り組んでいます。

第2回:認知症予防講座2(2012年08月22日)

認知症は一つの病気ではありません。癌もその発生部位および重症度で分けられているように認知症も色々な病名がついています。有名なアルツハイマー病はその一つの病名です。その他に、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症などがありますが、アルツハイマー病と脳血管性認知症合わせると75-80%になると言われていて、アルツハイマー病が第一位です。

そこで、今回から何回かに分けてアルツハイマー病についてお話をします。

アルツハイマー病は、ドイツのミュンヘン大学の精神医学科のアルツハイマー博士によって100年以上前に初めて報告されたもので博士の名前が病名になっています。報告によれば、51歳の女性が嫉妬妄想で発症し、記憶障害、被害妄想、失見当識(自分がいる場所や年月日の認識が出来なくなる)が出現し4年半の経過後寝たきりとなって死亡したとのことです。剖検(死後に解剖して検査すること)では、肉眼で脳の委縮が見られ、顕微鏡で老人斑と神経原線繊維がみとめらました。

その後の研究で、始めにAβ(アミロイドベータ)という物質が脳内に沈着・凝集することで老人斑が形成され、さらに進んでタウ蛋白の異常リン酸化による神経原線繊維変化が生じ、神経細胞が死に至るというAβ仮説が支持されています。これらは病理学的なお話しで少し難しかったと思いますが、この頃はTVや新聞などでもAβ仮説が言われますので出来るだけ簡明に触れました。

悩む女性

さて、次に症候学(症状)的な視点でお話をします。家族が気付くアルツハイマー病の初期症状は「もの忘れ」であると考えられています。具体的には、少し前のことを忘れる、同じことを何回も言ったり聞いたりする、置き忘れやしまい忘れ、人やものの名前がでてこない、漢字がでてこない、などです。専門的には記憶障害に基づく症状といいます。

ここで、記憶の分類をしましょう。表1に記憶時間で分類したものを示します。

即時記憶の内、短期記憶は例えば電話番号などを覚えてそのまま電話する時などで使われる記憶です。また、作業記憶は何か作業をする時にその手順を覚えておく記憶です。アルツハイマー病の初期では即時記憶は保たれていて、話し相手との会話はほぼ成立します。しかし、海馬が関連すると思われている近似記憶は障害されるため、前述の少し前のことを忘れる、同じことを何回も言ったり聞いたりする、置き忘れやしまい忘れが現れます。これに対して、過去に起こった出来事に関する遠隔記憶は初期の段階では保たれていて、過去の出来事のお話も出来ます。

このような初期症状が現れたら「歳をとれば誰でも起きるもの忘れ」などと言わず、医師の診断をお勧めします。

表1 記憶時間による分類
大分類 小分類 内容
即時記憶
Immediate memory
短期記憶
Short-term memory
長くても1分以内の記憶
相手の話したことなどを覚えている記憶
作業記憶
Working memory
長くても1分以内の記憶
その時遂行している作業を維持するために必要な記憶
長期記憶
Long-term memory
近時記憶
Recent memory
数分から数ヶ月の記憶
遠隔記憶
Remote memory
数ヶ月から年の単位の記憶

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