志村 孚城(しむら たかき)先生のコラム

筆者プロフィール

志村 孚城(しむら たかき)先生の写真

志村 孚城先生

日本早期認知症学会 理事長。日本生体医工学会BME on Dementia研究会 会長。富士通に在籍中に、医療・福祉機器やシステムの研究開発や認知症の研究などに携わったのち、浜松市内で、デイサービスセンターを運営。実際のケアに携わりながら、認知症の研究・予防・対策に積極的に取り組んでいます。

第7回:認知症予防講座7(2013年10月17日)

アルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症とここまでの解説で、認知症は一つの病気ではない、初期症状も対策もそれぞれである、症状に対応する障害されている脳の部位が想定される・・・・などを御理解いただけたと思います。今回から、前頭側頭葉変性症に話を進めます。

前頭側頭葉変性症は、Arnold Pickが約100年前に前頭・側頭葉の委縮を呈し特殊な言語症状や精神症状を示す一連の症状を発表したことから始まります。1926年にはピック病の名称が与えられました。1994年にはLund とManchesterのグループが従来ピック病と言われていた疾病を、ピック病(PD: Pick's disease、非アルツハイマー型前頭葉変性症(FLD: frontal lobe degenera-tion of non-Alzheimer type)、および運動ニューロン疾患(MND: motor neuron disease)に分化し、前頭側頭型認知症(FTD: frontotemporal dementia)と命名して臨床的・病理学的な診断基準を示しました。その後1996年には進行性非流暢性失語(PA: progressive non-fluent aphasia)と意味性認知症(SD: semantic dementia)を加えた前頭側頭葉変性症(FTLD: frontotemporal lobar degeneration)という上位概念に統合されて現在に至っています。以上を図1に示します。

図1 前頭側頭葉変性症の概念の遷移

以上述べたように前頭側頭葉変性症はいろいろなタイプの症状を呈す認知症の総称と理解していただくのが良いと思います。よって、予防に関連する初期症状については個々の疾患について理解を深めて下さい。

前頭側頭型認知症はアルツハイマー病と異なり脳の後頭部は保たれていてもの忘れのような典型的指標がありません。しかし、「社会行動*1」「感情*2」「日常生活*3」の変化が初期から生じ、「自発性の低下」「常同行動*4」の頻度が高く、「社会に対する関心の喪失」「自己に対する関心の喪失」「脱抑制*5」「易刺激性*6」などが発症する場合もみられると言われています。これらは、額の奥に位置する前頭前野機能そのものの低下として理解できます。前頭前野は人間の行動の司令塔の働きをし、その後方の運動連合野を支配しています。具体的な機能を図2の左に示しましたが、ここで示された機能の低下が、前述の初期障害と見事に一致することを御確認下さい。

図2 前頭前野機能

意味性認知症は側頭葉前方部が障害されて、「物の名前が言えない」「複数の物品から、指示された物を指すことができない」の2方向性の障害が現れます。特に、左側頭葉優位の委縮では語義失語が初期から現れると言われています。右側優位では、有名人や家族の顔をみても誰か判らず、有名な建築物や風景を見てもそれが何か認知できなくなります。進行性非流暢性失語は「とぎれとぎれの発語になる」ことが特徴で、「吃音*7」「構音障害*8」「錯語*9」「失文法」などを伴う場合が多いです。意味性認知症、進行性非流暢性失語では日常生活面での記憶は良く保たれているのに、発語がままならず答えないため記憶検査が不合格になり、アルツハイマー病と誤る場合もありますので要注意です。MRIやSPECT、FDG-PETを受けて確定診断を引き出すようにして下さい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*1 社会行動の変化:
     社会的環境の中で自己の位置を認識する能力が劣ってくる。

*2 感情の変化:
     好機嫌、不機嫌、無表情など、様々な感情の変調があらわれる。

*3 日常生活の変化:
     自発性の低下や無関心がほぼ全例で認められる。

*4 常同行動:
     毎日繰り返して同じこと(散歩、調理など)を行うようになる。

*5 脱抑制:
     本能のおもむくままの行動をとるようになる。

*6 易刺激性:
     些細な刺激にも激しく反応し、不快感情が現れるようになる。

*7 吃音:
     どもること。

*8 構音障害:
     発音が正しく出来ない症状のこと。

*9 錯語:
     意図した言葉と別の誤った言葉をしゃべり、
     間違いに気づかない現象をいう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


掲載中のコラム

戻る